◇◇ 精液所見に異常が見られる場合の治療 ◇◇
自然妊娠がほとんど不可能とされる精液所見では、薬剤治療もほとんど効果が期待
できないためにすぐに顕微授精などのARTを必要とする場合もありますが、通常、
配偶者に異常が見られず精液の所見が不良な場合は配偶者の排卵日に合わせて性交渉
をもつという治療からはじめます。
この治療を何周期か行っても妊娠が成立しない場合はホルモン治療を行うこともあ
ります。そしてそれでも妊娠が成立しない場合、人工授精(人工的に調整された優良
な精子を子宮内に注入する方法)や一般体外受精(シャーレ内で受精させる体外受
精)、そして顕微授精(顕微鏡で1匹の精子を1つの卵子に注入し受精させる体外受
精)と順に高度なARTを用いた治療をすすめていくこととなります。
◇◇ 閉塞性無精子症 ◇◇
閉塞性無精子症とは精管が閉塞され、射精精液中にまったく精子が存在しない疾患
をいいます。
基本原則は外科的手術ですが、精管が欠損している場合など手術が不可能な場合、
ARTを用いた治療が必須となります。次号で詳しくご紹介する予定の、精巣から外
科的に精子を直接採取して体外受精を行う治療が必要となります。この場合一般的に
は採取される精子は非常に少ないため顕微授精が行われます。
◇◇ 機能性無精子症 ◇◇
機能性無精子症は精巣の容量が小さく、精巣における精子の形成能に問題があると
される場合に疑われ、まず精巣組織の精密検査を行います(精巣生検)。そして、そ
の結果精子形成能に異常が見られた場合、機能性無精子症と診断されます。顕微授精
がまだ行われていなかった時期には、非配偶者間人工授精(AID)をすすめられるこ
とが多かったようですが、現在では組織の一部に精子が存在する症例があることが報
告され、顕微授精を行い妊娠に成功した症例もあります。
◇◇ 射精不能患者に対する治療 ◇◇
原因により薬物療法、心理療法、まれに外科的治療も行われます。他にも電気刺激
による刺激も行われる症例があります。しかし、射精量は非常に少ない場合が多く、
顕微授精が必要な場合が多くみられます。
◇◇ 逆行性射精の治療 ◇◇
正常の射精が起こるためには、膀胱頚部とよばれる部分が閉鎖されることが必要な
のですが、この閉鎖が不完全な場合、精液は膀胱へ射精されてしまいます。この現象
を逆行性射精といいます。
射精感はあるのに精液が尿道から出ない、また出ても非常に少量な場合は、逆行性
射精を疑う必要が出てきます。過去に脊髄の損傷や手術歴(前立腺の手術など)があ
る場合に多くみられます。診断は射精感を自覚した後に、尿を検査し尿中に精子が確
認された場合に逆行性射精と診断され、反対に尿中に精子が確認できなかった場合は
閉塞性無精子症が疑われます。
逆行性射精の治療としては、まず正常な射精が行われるように薬物療法や手術療法
を行い回復を試みますが、困難な場合は尿から精子を回収し人工授精や体外受精を行
います。
◇◇ 精巣上体精子採取術 ◇◇
麻酔を行い*精巣上体から直接精子を採取する方法です。精子が通る道を再建させる
手術の施行が困難な症例や、不妊期間が長く女性側の年齢のため患者様が強く希望を
された場合に、この精巣上体精子採取術が適応となります。精巣上体精子採取術には
以下の2種類の方法があります。
*精巣上体:睾丸に隣接する細長い器官で精管につながっており、この精巣上体のなか
を精子がゆっくりと移動し成熟していきます。
-- 顕微鏡下精巣上体精子吸引術(MESA) --
麻酔下に陰嚢を切開し精巣上体を露出させ、手術用の顕微鏡下に精巣上体管から内容
液を吸引する方法です。
-- 経皮的精巣上体精子吸引術(PESA) --
局所麻酔を十分行った後、精巣上体の頭部から注射針を刺し吸引する方法です。
MESAに比べて採取精子数が少ないのが欠点でしたが、ICSIの近年の進歩によ
り良好な成績が得られるようになり、MESAに比べ迅速・簡易・安全の意味から今
後はMESA法に変わりうる方法と考えられています。
◇◇ 精巣内精子採取術 ◇◇
ARTの飛躍的な進歩により受精に必要な精子の数が減るとともに、精子の回収法
も新しい技法が開発されています。この精巣内精子採取術(TESE)はその一つで
あり、手法の簡便さもあり世界中で施行され良好な成績が報告されています。当初は
MESAにて精子を採取できない症例に対して行われていましたが、現在では適応が
拡大され、他治療が無効な射精障害・精子無力症や重度精子奇形症で射出精子による
ICSIが行えない場合などにも施行されています。
方法は麻酔下に精巣を切開し精巣の組織の一部を採取し、その組織内から精子を検
索する方法です。また採取した精子は、凍結保存をすることが出来ます。
◇◇ 精巣内精子を用いたICSIの成績 ◇◇
-- 射出精子による体外受精との比較(1998.2〜1999.4) --
TESE 射出精子
受精率 59.2% 81.8%
分割率 70.6% 89.4%
妊娠率 24.2% 41.0%
TESEによるICSIは、射出精子のICSIに比べ、受精率、分割率、妊娠率
のすべてにおいて低率であるという結果が出ています。ですが、顕微授精がまだな
かった時期では、非配偶者間人工授精(AID)しか治療法はないかと思われていた無
精子症も、このTESEによりこれだけの妊娠率が上げられていることを考えると決
して低い数字ではないと思います。
-- 新鮮TESE-ICSIと凍結融解TESE-ICSIとの比較(1998.2〜1999.4) --
TESEを行ってすぐにICSIをした場合(新鮮)と、TESE後に凍結した精
子を融解してICSIを行った場合の比較です。
新鮮 凍結融解
受精率 62.0% 55.4%
分割率 75.7% 62.7%
妊娠率 31.6% 14.3%
また、TESE−ICSIを行うにあたって、動いている精子を用いたか、動いて
いない精子(不動精子)を用いたかで成績を比較したところ、不動精子を用いた
ICSIは受精率と妊娠率が低率でありました。これらのことより、TESE−
ICSIでは新鮮精巣精子を用い、かつ運動精子を用いた方が良い成績が得られるこ
ともわかりました。今後は生存精子の選別や、不動精子をいかに活性化させるかとい
うところが課題となってくると思っています。